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紙文化が残る理由:医療現場にDXが根づかない本当の壁

2026/01/27

はじめに:なぜ医療だけが「紙から抜け出せない」のか

行政、金融、製造業など、さまざまな分野でDXが進む中、医療現場はいまだに紙が多く使われている。 カルテ、申し送り、チェックリスト、メモ──「まだ紙なのか」と感じる人も少なくないだろう。 しかし、医療現場の内側を見てみると、その見方は必ずしも正しくない。 紙が残っているのは、非効率だからではなく、合理的な理由があるからだ。 なぜ医療現場ではDXが思うように根づかないのか。 その背景にある「本当の壁」を整理していく。

DXが進まないのは「ITが遅れているから」ではない

医療現場は、決してIT導入が遅れているわけではない。 電子カルテやオーダリングシステム、画像管理システムなど、医療分野は早い段階からデジタル化を進めてきた。 問題は、システムが存在することと業務が変わることがイコールではない点にある。 多くの医療機関では、 システムは導入されている しかし業務フロー自体は大きく変わっていない 結果として紙とデジタルが併存している という状態が続いている。 医療DXの課題は、技術よりも「運用」にある。

紙文化を支える医療現場特有の構造

医療現場では、医師・看護師・薬剤師・検査技師・事務スタッフなど、多くの職種が同時に関わる。 情報共有のスピードと分かりやすさは、業務の質を左右する重要な要素だ。 紙には、 一目で状況が把握できる 誰が見ても同じ情報を共有できる その場で書き足せる という強みがある。 さらに、医療は例外対応の連続であり、業務を完全に標準化することが難しい。 この柔軟性を、紙は長年にわたって支えてきた。

「安全第一」がDX導入のブレーキになる理由

医療において最優先されるのは、安全性だ。 そのため、新しい仕組みを導入する際には慎重にならざるを得ない。 入力ミスが起きないか システム障害が発生した場合に対応できるか 現場が混乱しないか 紙は電源を必要とせず、止まることもない。 「何かあっても紙がある」という安心感は、医療現場にとって大きな意味を持つ。 DXは安全性を高めるための手段である一方、導入初期にはリスクとして認識されやすい。 この点が、DX推進の大きな壁となっている。

現場と経営の温度差が生むDXの空回り

DXは多くの場合、経営層の判断で進められる。 その結果、現場との間に温度差が生まれることがある。 経営層:効率化、可視化、データ活用 現場:入力作業の増加、負担感の増大 現場からは「仕事が楽になるどころか、増えた」という声も少なくない。 業務改善よりもシステム導入が目的化すると、DXは形骸化しやすい。

システムはあっても「使われない」本当の理由

医療DXでは、UI・UXの問題が見過ごされがちだ。 忙しさのピークや緊急対応を前提としない設計は、現場に定着しにくい。 その結果、 まず紙に記録する 後からまとめて入力する 紙とデジタルの二重管理が発生する という非効率な運用が常態化する。 これではDXが根づくはずがない。

それでも紙が選ばれ続ける決定的な理由

紙は、 操作が速い 直感的に理解できる 使い方を選ばない という特性を持つ。 教育コストがほとんどかからず、新人や異動者でもすぐに使える点も大きい。 紙文化は、現場が試行錯誤の末に選び続けてきた実践的な解である。

DXを阻む「壁」の正体とは何か

医療DXを阻んでいるのは、単なる技術不足や予算不足ではない。 本質的な課題は、業務文化と合意形成の難しさにある。 DXとは、システム導入ではなく、仕事のやり方を変えることだ。 だからこそ、医療分野では特に時間と配慮が必要になる。

おわりに:紙を否定しないDXこそが医療を変える

医療DXのゴールは、紙を完全になくすことではない。 紙が果たしてきた役割を理解し、その強みを活かした上でデジタル化を進めることが重要だ。 小さな改善を積み重ね、現場に成功体験を増やしていく。 紙を敵にしないDXこそが、医療現場に本当に根づくDXへの近道だろう。