電子カルテ情報共有サービスとは? -医療DXを支える新たな情報連携基盤と2026年度診療報酬改定
2026/08/03
(※本内容は公開日時点の情報です)医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進により、日本の医療は「デジタル化」から「情報をつなぐ医療」へと大きく変わろうとしています。その中核となる仕組みが、厚生労働省が整備を進める電子カルテ情報共有サービスです。
電子カルテ情報共有サービスは、医療機関ごとに管理されてきた診療情報を、患者本人の同意のもと、必要な医療機関等で安全に共有するための仕組みです。2026年度診療報酬改定では、このサービスへの対応状況も評価対象となる「電子的診療情報連携体制整備加算」が新設され、医療機関にとっても重要なテーマとなっています。
今回は、電子カルテ情報共有サービスの概要と期待される効果、そして診療報酬改定との関係についてご紹介します。
1.なぜ電子カルテ情報共有サービスが必要なのか
これまで患者の診療情報は、それぞれの医療機関で個別に管理されてきました。 そのため、患者が別の医療機関を受診した場合には、- 紹介状が届くまで診療内容が分からない
- 過去の検査結果を確認できず、同じ検査を実施する
- 服薬情報やアレルギー情報を患者の記憶に頼らざるを得ない
- 救急搬送時に既往歴を把握できない
特に高齢化が進む現在では、複数の医療機関を受診する患者も多く、一人の患者を病院・診療所・薬局・介護施設などが連携して支える機会が増えています。
こうした状況の中で、安全で質の高い医療を実現するためには、必要な医療情報を必要な時に共有できる仕組みが欠かせません。
そのために整備が進められているのが、電子カルテ情報共有サービスです。
2.電子カルテ情報共有サービスの4つの機能
厚生労働省では、電子カルテ情報共有サービスの機能を大きく4つに整理しています。① 文書送受信サービス
診療情報提供書(紹介状)や退院時サマリーなどを、医療機関間で電子的に送受信できる機能です。紹介先の医療機関では、患者が来院する前から紹介状を確認できるため、診療の準備がスムーズになります。
また、紙での印刷や郵送が不要となり、紹介元・紹介先双方の事務負担軽減も期待されています。
患者にとっても、紹介状を持参し忘れる心配や、作成を待つ時間の短縮につながります。
② 健診文書登録・閲覧サービス
健康診断結果を登録し、患者本人や医療機関、医療保険者が閲覧できる機能です。過去の健診結果を継続的に確認できることで、生活習慣病の早期発見や健康管理にも役立ちます。
③ 臨床情報登録・閲覧サービス
電子カルテに記録された傷病名、感染症情報、薬剤アレルギー等、その他のアレルギー等、検査結果などを共有する機能です。これにより、他院での診療内容を把握しやすくなり、重複検査や重複投薬の防止、安全な医療の提供につながります。
また、救急搬送時や災害時など、患者本人から十分な情報を得られない場面でも、必要な情報を迅速に確認できることが期待されています。
④ 患者サマリー登録・閲覧サービス
医師から患者への療養上のアドバイスや診療内容を患者本人がマイナポータルで確認できる機能です。患者自身が病状や治療方針を理解し、治療への参加意識を高めることにもつながります。
共有される情報 電子カルテ情報共有サービスで共有される主な情報は、
- 診療情報提供書
- 退院時サマリー
- 健康診断結果報告書
- 傷病名
- 感染症情報
- 薬剤アレルギー等
- その他のアレルギー等
- 検査結果
2026年7月に厚生労働省が公表した最新資料では、傷病名やアレルギー情報などの登録・共有方法について具体的な運用方針も示されました。
例えば、傷病名は電子カルテに記録されたものを原則としてサービスへ登録し、他の医療機関等ではその情報を共有します。一方で、患者本人へ表示する情報については、医師等が「患者が誤解なく受け取れる」と判断したものが対象となります。
また、アレルギー等情報については、アナフィラキシーなど重篤なものを対象とし、必要に応じて医師等の判断で他の重篤な症状も登録できます。
感染症情報についても、患者への十分な説明を行った上で、患者本人が閲覧できるよう配慮された仕組みとなっています。
このように、患者の利益と医療安全の両立を図りながら情報共有が行われることが、このサービスの特徴です。
3.患者の同意と情報管理
電子カルテ情報共有サービスでは、「必要な情報を必要な医療機関だけが利用する」ことが大前提となっています。医療機関が情報を閲覧する際には、原則として患者本人の同意が必要です。
また、取得した情報を診療目的以外で利用することは認められておらず、アクセス権限の管理や操作履歴の記録など、厳格なセキュリティ対策が講じられます。
医療情報は極めて機微性の高い個人情報であるため、システムだけではなく、医療機関における適切な運用体制も重要となります。
4.2026年度診療報酬改定との関係
電子カルテ情報共有サービスは、2026年度診療報酬改定とも密接に関係しています。今回の改定では、新たに「電子的診療情報連携体制整備加算」が創設されました。
この加算では、オンライン資格確認で取得した診療情報を診療に活用できる体制に加え、
- 電子処方箋への対応
- 電子カルテ情報共有サービスへの対応
- 医療情報を安全に管理するためのセキュリティ対策
特に上位区分では、電子カルテ情報共有サービスと連携できる電子カルテシステムを備え、必要な診療情報を実際の診療に活用できることが施設基準として求められています。
これまでの医療DXは、「システムを導入すること」が中心でした。しかし今後は、「取得した情報を診療に生かし、医療機関同士が連携できること」が評価される時代へと移りつつあります。
電子カルテ情報共有サービスは、その中心的な役割を担う仕組みと言えるでしょう。
5.医療機関に求められる準備
電子カルテ情報共有サービスへの対応には、電子カルテシステムの改修やネットワーク環境の整備だけではなく、院内の運用ルールづくりも重要です。例えば、
- 患者への同意取得方法
- 紹介状の電子送信手順
- 臨床情報の登録方法
- 他院から取得した情報の活用方法
- セキュリティ対策や職員教育
システムを導入するだけでは十分ではなく、医療従事者が情報を診療に活用できて初めて、医療DXの効果を発揮すると言えるでしょう。
6.これからの医療を支える「情報のつながり」
これまでの日本の医療は、医療機関ごとに情報を管理する「点」の医療でした。しかし、超高齢社会では、一人の患者を地域全体で支える「面」の医療が求められています。
電子カルテ情報共有サービスは、その基盤となる仕組みです。
必要な医療情報を必要なタイミングで共有することで、医療安全の向上、重複検査や重複投薬の防止、救急・災害時の迅速な対応、そして地域医療連携の強化が期待されています。
さらに、2026年度診療報酬改定では「電子的診療情報連携体制整備加算」が新設され、こうした情報連携体制そのものが診療報酬上も評価されるようになりました。
電子カルテ情報共有サービスへの対応は、単なるシステム更新ではなく、これからの地域医療を支えるための基盤整備と言えるでしょう。
医療DXが目指すのは、デジタル化そのものではありません。患者に必要な情報を、必要な医療者へ、必要なタイミングで届けることです。電子カルテ情報共有サービスは、その実現に向けた重要な一歩であり、今後の医療の質や安全性を支えるインフラとして、ますます重要性を増していくことが期待されています。
参考:厚生労働省「電子カルテ情報共有サービス概要案内 2.1.0版」
(https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001457777.pdf)